【現地レポート】歴史を繋いだ“もうひとつのサンフラワーズ”
2020年12月21日
「第87回皇后杯 全日本バスケットボール選手権大会 ファイナルラウンド(以下、皇后杯)」は最終日を終え、今年度の皇后杯はENEOSサンフラワーズに下賜された。8年連続25回目のことである。
序盤にペースをつかんだのは8年ぶりの優勝を目指すトヨタ自動車 アンテロープスだった。「優勝したい気持ちをみんなが持っていました。今年に賭ける思いが第1Qに出たのだと思います」と大会ベスト5に選ばれた馬瓜エブリンは言う。
準決勝でENEOSに敗れたデンソー アイリスは序盤にペースを握られ、追い上げることはできたが、経験に勝るENEOSを追い抜くことはできなかった。渡嘉敷来夢が不在のENEOSを倒すには、まず自分たちがペースを握り、相手を焦らせるくらいのスタートダッシュが必要だ。そう考えたとしてもおかしくはない。しかしそんな考えさえENEOSは乗り超えていった。
馬瓜は悔しさを隠そうとせず、期する巻き返しを、こんな表現で誓う。
「本当にここまできたら歴史との戦いというか、ENEOS対Wリーグのどこが勝つかみたいな感じになりますけど、ENEOSが優勝するのにはそれだけの理由があるんだと思います。だからといって自分たちがダメということではなくて、今回は歴史を変えられなかったけど、まだチャンスはあると思っているので、そのためにもっともっと練習していきたいと思います」
渡嘉敷をはじめ、多くのケガ人を抱えるENEOSだったが、それでも自分たちの歴史を更新することに成功した。要因はいくつもある。岡本彩也花の献身、宮澤夕貴の執念、宮崎早織の独り立ち、中田珠未のステップアップ。試合後の優勝インタビューで梅嵜英毅ヘッドコーチに「ウチには私以外に渡嘉敷ヘッドコーチがいて、4人のケガをしたアシスタントコーチがいる」と言わしめたベンチの声――。そのどれもが8連覇に欠かせなかったが、なかでも中村優花の存在は際立っていた。
これまではベンチメンバーの中でも、とりわけコートに立つ機会の少ない中堅選手だった。そんな彼女を、ケガをした梅沢ガディシャ樹奈の代わりに起用した理由を、梅嵜ヘッドコーチはこう言っている。
「中村はこのチームで8年、今の選手たちと一緒にプレーしていて、渡嘉敷、岡本、宮澤にしたら一番合わせやすい選手だと考えました。ENEOSのバスケットがわかっているし、彼女の良さはスピードがあって、ドリブルでプッシュができるところです。ちょっと違った意味で、ENEOSのカラーにプラスされるかなと。梅沢の穴を埋めることはけっして簡単ではないんですけど、彼女の、周りとは全然違うリズムをチームに埋め込もうと考えて抜擢しました」
これまでのENEOSのバスケットにちょっとしたアクセントを加える。そんな考えが、結果として、大会8連覇に向けて大きな推進力になったというわけだ。
キャプテンの岡本が言葉をつなぐ。
「今大会は渡嘉敷がケガでプレーできませんでしたが、渡嘉敷や宮澤たちが日本代表の強化合宿でいないWリーグのサマーキャンプは、残ったメンバーで5人全員がプッシュするバスケットを目標にやっています。だから、今大会もどちらかといえば、いつものENEOSというより、本当にアグレッシブに、5人全員がスピードでプレーする、サマーキャンプのときのENEOSが見られたんじゃないかなと。私自身もそれが発見というか、こんなにできるんだと思ったし、自信にもなりました」
相次ぐケガ人で苦しんだENEOSだったが、そこで生まれた「全員バスケット」はけっして急造のスタイルではなかった。日本代表選手を多く輩出しているがゆえに築いていた、しかしあまり一般には知られてはいない“もうひとつのサンフラワーズ”だったというわけである。
ENEOSの「一強」を「おもしろくない」と安易に考えてはいけない。彼女たちもさらなる進化を常に追い求めているし、その強いENEOSをいかに倒すかに執念を燃やすチーム、選手がいるからこそ、日本の女子バスケットはおもしろいのである。