【現地レポート】敗北のなかに潜む進化の種
2020年12月19日
「第87回皇后杯 全日本バスケットボール選手権大会 ファイナルラウンド (以下、皇后杯)」は大会 4 日目 (※大会 3 日はレストデーのため試合なし) を終え、今年度のファイナリストが決まった。
先に決勝戦へ勝ち上がったのは大会 7 連覇中のENEOSサンフラワーズ。渡嘉敷来夢がケガのため出場できなくなったが、中村優花と中田珠未がしっかりとその穴を埋めて、デンソー アイリスを圧倒した。
序盤から追いかける展開になったデンソーも、第 3 クォーターの残り 3 分54秒には 6 点にまで追い上げている。しかしそこから約 2 分半の間にリードを16点差まで広げられてしまう。ここにひとつの勝負の分かれ目があった。ENEOSの強さと言ってもいい。
「点数を離されながら一時は 6 点差にしたんですけど、そこから一気に離されてしまいました。ほんの一瞬、気を緩めたときに相手に突かれたのは自分たちの弱さです」
デンソーの髙田真希はそう振り返る。
「試合の中ではアジャストしなければいけないところがあります。でも今はまだ言われたことをやっているだけになっているんです。自分たちの感覚だったり、やってみて、もう少しこうしたほうがいいなというところを、いかに試合の中で修正していくか。そこがまだ自分たちには足りません」
一方でENEOSのポイントガード、宮崎早織はその場面をこう振り返っている。
「あそこは我慢の時間帯だなと思っていました。でもそれを一番強く感じてくれていたのが岡本 (彩也花) 選手と宮澤 (夕貴) 選手でした。あの 2 人がその時間帯にリバウンドやルーズボールを頑張ってくれて、ボールをプッシュしてくれたおかげで、我慢の時間帯に点差を広げることができたんです。センターの 2 人もそれについてきてくれましたし、そこが今日の勝利につながったと思います」
勝負所で、誰に何を言われるまでもなく、自分たちのすべきことを自分たち自身で見出し、アジャストしていく。ENEOSとデンソーを分けた 2 分半にバスケットの奥深さがあった。
もうひとつの試合はトヨタ自動車 アンテロープスが 2 年ぶりにファイナル進出を決めた。
初のベスト 4 進出となった日立ハイテク クーガーズも必死にくらいついたが、トヨタ自動車に51本のリバウンドを許し、しかもそのうち24本がオフェンスリバウンドだったことが大きな敗因となった。今年からチームを率いる内海知秀ヘッドコーチも「球際の強さはまだまだ我々も達していない」と認めざるを得ない。
それでも近年思うような成績が残せず、皇后杯でも苦杯を喫してきた日立ハイテクが、トヨタ自動車と互角の戦いを演じるまでステップアップできたのには理由がある。
トヨタ自動車の馬瓜エブリンが「今年の日立ハイテクは走りますね。みんなすごく走るし、体のあたりがかなりレベルアップしたと思います」と言えば、内海ヘッドコーチも就任当初と比べて「トランジションバスケットができるようになってきたことと、強化策のひとつである体を作っていくこと、つまり当たり負けしないようにすることはできてきたかな」と言っている。
今シーズンからチームに移籍してきた谷村里佳もまた「今までの日立ハイテクと違う」と認めるところでもある。
「試合をしていて、常に冷静でいられるんです。Wリーグの前半戦もそうですし、今大会も、体の当たりは多いけど、さほどラリーがきついと感じないんです」
内海ヘッドコーチが求めるトランジションバスケットを遂行しようと思えば、それだけの体力は必要だし、それだけの練習を重ねてきた自負もある。その成果が徐々に表に出てきているというわけである。
「いくらいい技術を持っていても、体力がなければついていけませんから。そこはいい変化かな」
選手個々のキャリアではやや見劣りする感の否めない日立ハイテクだが、チームで戦うバスケットを貫くことで個を上回ろうとしていた。期待していた結果は得られなかったが、大きな手応えを得て、皇后杯の舞台を降りていった。次なるステージを期待したい。