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【現地レポート】伝統を繋ぎ、悪弊を断つ

2020年12月17日

「第87回皇后杯 全日本バスケットボール選手権大会 ファイナルラウンド (以下、皇后杯)」は大会 2 日目を終え、今年度の “ファイナル 4 ” が出揃った。

 第 1 試合は日立ハイテク クーガーズが三菱電機 コアラーズを下し、皇后杯としては初のベスト 4 進出を果たした。昨年度もファイナルラウンドの初戦で対戦した両チームだったが、そのときは三菱電機が 2 点差で勝っている。日立ハイテクとしてはその雪辱を果たしたことになる。
 敗れた三菱電機のキャプテン、渡邉亜弥はこう振り返る。
「自分たちのやってきたことをしっかりコートに出そうと話していたんですけど、そのなかでもちょっとした準備だったり、もう少しあのプレーのコンビネーションを合わせておけばよかったとか、自分たちも後悔しているところがあります」
 三菱電機といえば伝統的に組織力で戦うチームである。彼女たちのゾーンディフェンスはその象徴といっていい。その三菱電機がコンビネーションに齟齬が生まれて、負けたというわけである。
 メンバーが大きく変わったわけではない。むしろセンターの王新朝喜さんが引退したくらいだ。しかしその穴が小さくなかった。後継のセンター、西岡里紗は頑張っているが、王さんほどの存在感をまだ発揮できていない。若さもある。今日の西岡は無得点、0 リバウンドだった。主軸として成長期にある彼女のさらなるステップアップが今の三菱電機には待たれるところだろう。
 両チームを通じて最高の25得点を挙げた渡邉だったが、取材陣の待つミックスゾーンに出てくるまでには時間を要した。気持ちの整理をしていたのだという。それだけこの大会に賭ける思いもあったのだろう。伝統を繋いでいくために――。“組織の三菱” はまだ終わっていない。

 第 2 試合。アイシン・エイ・ダブリュ ウィングスは 2 年連続でのファイナルラウンド進出だったが、今年も前回大会と同様にトヨタ自動車 アンテロープスの壁を打ち破れなかった。エースの宮下希保は前半を同点で折り返した時点で23得点。しかし後半は自分を含めたチーム全員が「守りに入った」と敗因を語る。
 リードしていたわけではない。それでもアイシン・エイ・ダブリュが守りに入ったことを、宮下はこう表現している。
「徐々に変わってきているんですけれど、それでも私がこのチームに入ったときから、どこか負け癖がついているんです。それがなかなか取り切れない……断ち切ることができないんです」
 言うまでもなく悪弊である。伝統にしてはいけない悪い習慣が、アイシン・エイ・ダブリュには今もまだ横たわっているというわけだ。
 しかしWリーグで苦しみながらも、皇后杯では、上記のとおり、2 年連続でファイナルラウンドまで勝ち上がっている。昨年度は富士通 レッドウェーブを、今年度はシャンソン化粧品シャンソンVマジックを、それぞれ下位ラウンドで倒しての出場である。
「皇后杯は昨年から調子がいいんです。もちろん勢いで勝ち上がれるほど甘いところではないけれど、今年はシャンソン化粧品に勝ったからファイナルラウンドではもっと頑張ろうと、みんなのモチベーションが上がっていました」
 宮下の言うとおり、皇后杯は甘い大会ではない。しかしひとつの勝利が、そしてその一つひとつの積み重ねが、苦しめられてきた悪弊を断つきっかけにもなる。今季で87回を数えた皇后杯は、そんな特別な大会でもある。

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