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【ファイナル 現地レポート】7 年ぶりの天皇杯獲得に “貫く” 強さを見た

2021年3月13日

「第96回天皇杯 全日本バスケットボール選手権大会 ファイナルラウンド (以下、天皇杯)」の優勝チームが決まった。川崎ブレイブサンダース。7 年ぶり 4 回目の戴冠である。

 対する宇都宮ブレックスとともに、ディフェンスの強度が高いチームとして定評があった。スポーツの世界では「オフェンスの強いチームが勝つ」あるいは「ディフェンスの強いチームがチャンピオンになる」などと、しばしば意見が戦わされる。それを地で行くような決勝戦だったわけだが、最終スコアは76-60。宇都宮は川崎のオフェンスを思うように止められなかった。

 勝敗を分けたシーンはいくつかある。その一つとして第 3 クォーターの “5 分” を挙げたい。残り 7 分21秒、宇都宮のジョシュ・スコットがフリースローを 1 本決めた後の 5 分間、彼らの得点は比江島慎のジャンプシュート 1 本に止まっている。
 その間、川崎があげたのは10得点である。
 その時間帯を安齋竜三ヘッドコーチはこう振り返っている。
「第 1 クォーターこそディフェンスからのトランジションで得点が取れていましたが、それ以降、セットオフェンスになると、川崎のビッグラインアップのディフェンスをなかなか打開できなくなり、あの場面も苦しい時間でした。そういう時間帯にイージーなレイアップシュートや 3 ポイントシュートをやられると苦しくなるのはわかっていたのですが、今日は川崎がそこをやりきってきました」
 川崎は辻直人の 2 本の 3 ポイントシュート、その流れを嫌った宇都宮のタイムアウト後には篠山竜青のファストブレイク、ニック・ファジーカスの得点、そして辻がスティールからレイアップシュートを決めている。
 試合を通して宇都宮の選手たちは自らのゲームプランを遂行し、ミスマッチになっても体を張って守っていた。安齋ヘッドコーチもそれを認めている。しかし川崎の遂行力がそれを上回った。あの 5 分だけを見れば、脱帽ということなのかもしれない。

 一方の川崎はその “5 分” をどう見ていたか。10得点のきっかけとなる 2 本の 3 ポイントシュートを立て続けに決めた辻直人がこう振り返っている。
「前半は、最近のリーグ戦で生まれていたシュートへの迷いがでて、自分の流れでシュートが打ち切れなかったんです。それでもベンチにいた (大塚) 裕土さんや熊谷 (尚也)、長谷川 (技) が声をかけてくれたんです。『今日、試合に出てんのか?』と。それで気持ちが楽になって、あのシュートにつながりました」
 ベンチメンバーの一言がシューターの迷いとともに、重苦しい試合の流れを大きく変えたのである。
「みんな言ってくれないけど、我ながら、ええとこで決めたなと。またおいしいところを持っていったなって感じています」
 辻とは高校、大学で先輩・後輩の間柄である宇都宮の比江島は「やられてはいけなかった選手」として、辻の名前を挙げている。両チーム最多の13得点をあげた増田啓介もさることながら、やはり川崎との試合で注意しなければいけないのはファジーカスであり、辻なのだと。
「辻さんのところは注意を払うべきだった」

 2 本の 3 ポイントシュートでリズムをつかんだ川崎だったが、しかしオフェンスで波に乗ろうとはしなかった。あくまでも自分たちのベースはディフェンスにある。ディフェンスのプレッシャーをより強めることで、結果として篠山と辻の速攻を生み出したのである。
「戦術や相手に合わせてというよりも、自分たちが大事にしているディフェンスを最初から最後まで続けられたことが一番の勝因だと思います」
 川崎の佐藤賢次ヘッドコーチがそう言えば、キャプテンの篠山竜青はこの勝利を B.LEAGUE にもつなげるべく、饒舌に、しかし力強く語る。
「こうして結果が出ることで、自分たちがやっていることが間違いじゃないとわかるのは非常に大きいことです。強いから勝つこともありますが、勝って強くなることもあります。勝ったからこそ……この優勝という甘い蜜の味を知れたからこそ、日常に優勝をイメージしやすくなるし、一人ひとりがもっとハードワークできることがあると思います。今回の天皇杯は特別な戦術で勝ったわけではなく、改めて自分たちのベースで勝てたことは自信を得る意味でも大きいです。このベースをもっともっと分厚くしていけば、自然とリーグ戦にも勢いが出るんじゃないかと思います」

 勢いに乗ってもなおベースを崩さない。その冷静さ、マインドセットこそが川崎が天皇杯を手中にできた要因になったのだろう。むろん宇都宮もこれで引き下がるチームではない。ディフェンシブなチームの戦いは、これからよりその強度を増していくはずである。

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