ニュース

【現地レポート】越えられなかった壁

2020年12月16日

「第87回皇后杯 全日本バスケットボール選手権大会 ファイナルラウンド (以下、皇后杯)」の準々決勝第 1 試合、ENEOSサンフラワーズと富士通 レッドウェーブは第 1 クォーターでENEOSの渡嘉敷来夢が負傷退場するというアクシデントから始まった。ただでさえ、今シーズンのENEOSは負傷者が多く、今大会の前にも渡嘉敷とコンビを組む梅沢ガディシャ樹奈が戦線離脱を余儀なくされていた。高さに劣る富士通がそこにつけ込もうと考えたのも無理はない。
 しかし梅沢を欠き、渡嘉敷も失ったENEOSを富士通は上回れなかった。むしろ絶対的な大黒柱を失ったことでチームの一体感がより強固に結ばれたENEOSに圧倒される完敗となってしまった。
 試合後、キャプテンで司令塔の町田瑠唯は目に涙を浮かべながら、「今日の試合で本当に自分たちは弱いんだなと思いました」と振り返る。
 これまでは渡嘉敷と梅沢の高さを、直接的な言い訳にこそしなかったものの、ある種の “免罪符” にすることができていた。しかしそれがなくなった今回もENEOSを倒せなかったことに、町田は深いショックを受けたのである。
 ただ、身長差を除いてもなお、自分たちが弱いと気づけた意義は大きい。町田の悔し涙はきっと女子バスケットボール界をさらに活性化させるものになるはずである。

 第 2 試合はデンソー アイリスがトヨタ紡織 サンシャインラビッツを85-73で下し、準決勝進出を決めた。
 このゲームでもまた壁を “超えられなかった” 選手がいる。トヨタ紡織の東藤なな子である。しかし彼女の目に涙が光ることはなかった。
「W リーグでのデンソー戦では本川 (紗奈生) さんに完全に圧倒されていたんです。気持ちの強さも、シュートを決めきるところも圧倒されたので、今回はそこで負けないように気持ちで頑張ろうと思っていました。(試合が終わった今振り返れば) 後半は集中力が落ちてしまいましたが、前半は攻め気を持ってドライブにも行けたので、そこは収穫だったかな」
 そう言って、マスク越しにもわかる笑顔を見せる東藤と本川は同じ札幌山の手高校の出身。直接的なつながりこそないが、本川が先輩で、東藤が後輩という関係である。その先輩をリーグ戦に続き、今回も超えることはできなかった。それでも東藤は「少しは自分らしさが出せた」と言う。
 わずかではあるが、負けても胸を張れるところに、今後の楽しみは生まれる。

 皇后杯は、言うまでもなく一発勝負のトーナメント形式。負けてしまえば、ゲームを続けることはできない。しかし、その一方で、一発勝負だからこそ得られる経験もある。

NOW LOADING

TOP